第Ⅰ部第3章は「武家の嗜み」で、能や和歌(細川幽斎は古今伝授の伝承者)や茶道(忠興は利休七哲のひとり)にゆかりのある名品が紹介されていた。
ここでは茶道具がひときわ目を引いた。
利休が北野大茶会で使用したとされる
「南蛮芋頭水差」や
「唐物尻膨茶入(利休尻ふくら)」、非の打ちどころのないほど均整のとれた形をした
「唐物茶壷(銘 頼政)」(顔は猿で胴体は狸、手足は虎、尾は蛇の怪物「鵺」を退治した平安時代の武将・源頼政にちなんでつけられた
)、
「黒楽茶碗(銘 おとごぜ)」、侘び茶の創始者・村田珠光が所持していたとされる
「黄天目 珠光天目」など、名品ぞろいでため息が出る。
中でも印象深かったのが、利休作の茶杓
「銘 ゆがみ」である。
これは、利休が秀吉に蟄居を命じられた際に、忠興と古田織部だけが淀まで見送りにきたことから、後に利休が感謝のしるしとして、みずから削った茶杓をこの二人の高弟にそれぞれ贈ったもの(織部に贈られたのが「銘 泪」)。
歪みというか、少しねじれたような顕著な蟻腰になめらかな節をもつ、非常に繊細な薄づくりの茶杓である。
きわめて均衡を欠いた「ゆがみ」の中に美を見いだし、それを自分の形見とした利休の美学と魂のあり方。それは、次のコーナーで紹介される白隠の画や書にも通底するように思える。