夢ねこの実家(関西)に帰省したついでに、滋賀県の信楽にあるMIHO MUSEUMに行ってみた。
そこは、深山幽谷ともいえるような山の奥にあった。
山の中にぽっかり開いたトンネル。
レストランやミュージアムショップのあるレセプション館からは、
環境に配慮した電気バスに乗って移動。
トンネルの中は、近未来的な空間。
電気バスの車窓から撮影。
トンネルを抜けて。ちょっと傾いてしまいましたが、美術館正面。
エントランスのロビー。
設計は、ルーブル美術館のガラスのピラミッドで有名なI・M・ペイ。
「桃源郷」を設計のテーマにしたというだけあって、
仙境の楽園のような風景が広がる。
この本館は、「自然と建物と美術品」「伝統と現代」「東洋と西洋」の
融合をテーマに、建築容積の80%以上が地中に埋設されている。
北館の枯山水の中庭。
春季特別展については別項に記すが、この美術館は常設展とその解説書もとても充実している。
(さすがは、辻惟雄先生が館長をしている美術館!)
南館には、エジプト、西アジア、ギリシア・ローマ、南アジア、中国・ペルシアの美術品が部屋ごとに陳列されていた。
一点一点、丁寧に美しく照明する展示法も素晴らしく、作品をぞんぶんに堪能できる贅沢な美術館だった。
エジプト
《隼頭神像》
エジプト第19王朝初期(紀元前1295-1213年頃)の作品。均整のとれた見事な造形に、金、銀、ラピスラズリ、水晶などが美しくちりばめられていて、3000年以上も前のものとは到底思えないほどの輝きを放っていた。
《アルシノエⅡ世像》
プトレマイオス朝時代(紀元前270-246年頃)に、花崗岩性閃緑岩に彫られた彫像。プトレマイオスⅡ世の姉であり王妃であったアルシノエⅡ世は、ギリシアの女神アフロディテの化身とされ、エジプトの女神イシス神とも同一視された。エジプトとギリシアの文化が混淆したヘレニズム時代らしい彫像。
西アジア
紀元前2000-1000年にかけて、文化の坩堝となったイラン高原。さまざまな文化が興亡し、高度な金属工芸技術を持った文化が各地に栄えた。
常設展では、紀元前12-11世紀の《猛禽装飾杯》や《王氏装飾杯》など、猛禽や牡牛の首の取っ手のついた装飾的な黄金の杯が展示されていた。
ギリシア・ローマ
《ケレース女神像》
豊穣を司るローマの女神。ギリシアのデメテルと同一視される。
《庭園図》や《エロス(キューピッド)》のフレスコ画などもあった。
南アジア
おもにガンダーラの仏像が展示されていた(他にはカンボジアの宝冠仏立像やインドネシアの仏頭など)。
おそらく高さ2.5メートル以上あるだろう《ガンダーラ仏立像》(2世紀後半、片岩)は圧巻!
中国・ペルシア
殷・周の時代の青銅器が多数展示されていた。
神霊や霊獣などのモティーフがちりばめられていて、非常に面白い。
たとえば、「饕餮文(とうてつもん)」。
「饕」は財貨を貪ること,「餮」は飲食を貪ることを意味し、宋代の書物『考古図』によると、「首ありて身なし、人を食らっていまだ咽せず、害その身に及ぶ」とある。
大きな目玉を持ち、麒麟か竜のような角を生やしている。おそらく獅子と猛禽が合体したグリフィンのように、竜や虎や猛禽などが合体した空想上の霊獣なのだろう。
鬼瓦やシーサーのように魔除けの意味が込められた呪術的なものだったにちがいない。こうしたモティーフを青銅器にちりばめることで、そこに供される飲食物を魔物から守るという意味合いがあったと思われる。
こうした風習は古今東西さまざまな文化に見られる。
ゴシック建築のガーゴイルもそのひとつだろう。
影響関係があるのか、それとも人類共通の集合的無意識的なものなのか。
研究・考察してみたくなる面白いテーマだ。
そんなわけで、非常に充実した展示の数々だったので、1日中居ても飽きない感じだ。
この日は、日頃祖母の介護に追われている母に気分転換してもらうためのイベントだったので、じっくり見ることはできなかったが、またぜひ訪れてみたい。
さて、信楽の山奥に、これほど巨大な美術館(建物そのものが芸術作品!)を建てたのは、滋賀県に本部のある新宗教教団「神慈秀明会」である。
この教団は、熱海にMOA美術館をつくった世界救世教から分派して生まれた神道系の教団だ。
いずれにしろ、美術(芸術)の振興には潤沢な資金を持つパトロンが必要である。
国家も企業も個人も資金不足にあえいでいる昨今(最貧国になる日も近い?)では、こうした新宗教による庇護が必要なのかもしれない。
わたし自身は無宗教だしビンボー人なので、大金を献金する信者の心理はいまひとつ分らないのだが、新宗教に金が集まる仕組みについては、島田裕巳著『新宗教ビジネス』(講談社)に詳しいので、興味がある方は参照されたい。