2010年6月12日土曜日
オルセー美術館展:ナビ派
第7章 ナビ派
おもに浮世絵とゴーギャンから影響を受けたとされる、平面的かつ装飾的なナビ派の絵画のコーナー。
ここでいちばん目を引いたのは、モローやルソーと並んでこの展覧会のお目当てだったドニの『ミューズたち』。
落ち葉模様の絨毯を敷き詰めたかに見える地面。ギリシャ神殿の円柱を思わせる太い樹木。装飾的な木の葉に覆われた森の中で、ミューズたちは瞑想に耽るかのように伏し目がちに佇んでいる。髪を結いあげた端正なその横顔は、どこか無機的で、瑪瑙に刻まれたカメオのよう。
アポロンの侍女で諸芸の女神でもある9人のミューズたちは、それぞれ「美声」、「賛歌」、「天上」、「悲劇」、「喜劇」、「叙事詩」、「音楽」、「多くの歌声」、「舞踏」を司るとされているが、ここではいずれもドニの妻マルトがそのモデルとなっている。
同じような顔、同じような物腰を持つ女性がステンドグラスのようなクロワゾニスムの手法で描かれることで、どこか異界めいた神秘的な雰囲気と独特のリズムが創出される。
この章には他にも、画面を分断する木立の影の部分と陽のあたる光の部分の強烈なコントラストが印象的なヴァロットンの『ボール』や、絵を見るだけではその良さがさっぱり分からず、由緒を聞いて初めて「へぇー、ほう」となる、セリュジェの『護符(タリスマン)』(注1)が飾られていた。
注1)ポン=タヴェンでゴーギャンから直接指導を受けて、セリュジュはこの絵をまるで抽象画のように描いた。そして、絵を仕上げたその日のうちにセリュジュはパリに戻り、ボナールやドニといった画家たちにこの絵を見せ、かくしてナビ派が結成されたという。だから、この絵はナビ派の「護符(タリスマン)」のようなものだという意味でこのタイトルがつけられた。