2011年6月25日土曜日

ムットーニ ワールドへ ~ 八王子市夢美術館

              
「そもそも私の根底にあるのは、濃密な閉ざされた世界を垣間見ること。
 そしてそこに神秘の領域と、永遠の迷宮と化したイメージの永久運動機を
 見出すこと……?」

                                                              武藤政彦『MUTTONISMO』



締め切りをひとつクリアしたので大好きなムットーニの展覧会へ。
この日は会期終了3日前の金曜日。おまけにムットーニ先生による上演会も開かれることもあり、会場は大入り満員でした。
 
上演会といっても、椅子席はなく、作品のまわりに観客が集まって、前列の人は地べたに体育坐り、後方の人は立ち見状態と、老若何女の村人たちが見世物小屋に集まっているようなスタイル。
そこへ渋めの黒いスーツに身を包んだムットーニ先生が登場。
活弁士のごとく巧みな話術で観客をムットーニワールドへと引き込んでいきます。


トップ・オブ・キャバレー(1997年)
画面下はムットーニのサイン

時は1920~30年代、禁酒法の時代。
華やかなりしビッグバンドの時代。

Harry James Orchestra with Kitty Kallenの "Like The Moon Above You"が流れるなか.機械仕掛けの人形たちのショータイムがはじまる。

琥珀色の肌をした歌姫が情感豊かに歌い上げ、
上段のバンドのリーダー(ハリー・ジェイムス?)がスポットライトを浴びながら
トランペットを高らかに吹き鳴らすと、
ステージの背後(最上段)から、バニーガールのコスチュームに身を包んだ
ダンサーたちが登場する。

煌びやかな古き良き時代。
いつまでも色褪せない永遠の時代。



クリスタル・キャバレー(1995年)

タワー型の本体の箱の両脇に小型のタワーを持つ、三位一体形式の組作品。

ムットーニは語る、
「名もない小さな惑星に、彼女のためにつくられた一夜かぎりの特別なステージ、クリスタル・キャバレー。
今宵こそ、あなたが歌姫。あなたの息吹は光となって世界を満たす……」    

曲は、とびっきり素敵なDinah Shoreの"My Melancholy Baby"(たしか、『クリスタル・ランデブー』という作品にもこの曲が使われています)。

この録音かどうか分りませんが、この曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=lPJCRoQ9QoU

間奏に入ると、歌姫の背後にあるハーフミラーの奥から、ピアノとドラムとウッドベースのトリオが浮かび上がり、名もなき惑星の場末のキャバレーの一夜かぎりのステージを盛り立てます。


とろけるように甘くて、たまらなくせつないハスキーボイスとピアノの音色に浸りながら、バーボンを傾けたい気分。
(やっぱ、ここはワインじゃなくてバーボンだよね!)

ムットーニ・ワールドに引き込まれると、媚薬でもかいだように目眩がするほど陶然として、どうしようもなく涙があふれてくるのです。
       
この人形のように、美しいクリスタルの光に包まれながら、一夜という永遠の夜に歌い続けられたら、どんなにか幸せだろう……。




アローン・ランデブー(2006年)

『猫町』、『山月記』、『月世界探検記』と同じく、世田谷文学館所蔵の作品。
レイ・ブラッドベリの短編『万華鏡』を題材にしています。

ロケット事故で遭難した宇宙飛行士が、宇宙空間を漂い、散り散りになっていく話。

最後に残った宇宙飛行士が流れ星となって、地球にゆっくりと浮遊するように落ちていくところが、じつに繊細な動きで表現されています。

ムットーニが得意とする「ノスタルジックな近未来」、「永遠に来ることのない未来」を描いた、どこか物悲しく、それでいて温かみのある作品でした。

流れ星となって消えゆく存在。
これほどロマンティックな死があるでしょうか。
青白く輝く宇宙色の細長い箱の中にこめられた作者の美学を垣間見た気がしました。



ギフトフロムダディ(2005年)

ある日、お父さんからロケットのおもちゃをプレゼントされた少年。
ミラーボールのようにきらきら光る贈り物を前に、少年の心も輝いていました。

ここからが、ムットーニの真骨頂。

贈り物の蓋が開いてロケットが飛び出すと、箱の両側が三連祭壇画のように展開し(ここで、蝶番設計の苦労話を語るムットーニ)、夢の中の幻影のように光り輝く宇宙空間が出現します。

美しい環を持つ惑星。
透明なカプセルに覆われた宇宙ステーション。
マリンスノーのように静かに流れ落ちる星々。

これこそ誰もが少年少女だったころに一度は思い描いた宇宙都市ではないでしょうか。

未知でありながら既知のように懐かしい宇宙。
過ぎ去った近未来。

誰もが持つ既視感をくすぐるのがじつに巧いのです、ムットーニは。


というわけで、自動人形と光と音楽が織りなすムットーニの異空間を堪能しました。

この日は上演会は45分間の一回だけの予定だったのですが、ムットーニ先生は、その後も引き続き他の作品もいろいろ解説してくださって、至れり尽くせりでした。
(おまけに夢ねこが購入したポストカードもサインをしてくださり、ありがとうございました! 家宝にします!)




八王子に来たのは久々。
趣のある古い呉服屋さんを発見。