2010年6月12日土曜日

オルセー美術館展:ポン=タヴェン派

             
第6章 ポン=タヴェン派


 ブルゴーニュ半島のポン=タヴェン村に集まり、ゴーギャンの影響を受けた画家たち。(従来は「綜合主義(の画家)」と呼ばれていたが、いつからポン=タヴェン派になったのだろう? 長生きはしてみるものだ。)

 ここでの白眉は、何といってもベルナールの『愛の森のマドレーヌ』だろう。

 これはベルナールの3歳年下の妹マドレーヌ(当時17歳)を描いた作品。
 ベルナール曰く「真の聖者の魂を持った」マドレーヌは、ポン=タヴェン派の画家たちから崇拝されたという。

 彼女の清らかさを象徴するかのように澄んだ湖をたたえた森の地面に横たわるマドレーヌ。どこか遠くを見るようなまなざしと、超然とした表情。青みがかったドレスで首元から足首までを覆われたその無垢な身体は、黒く太い輪郭線で描かれ、犯しがたい神聖な雰囲気を醸している。

 マドレーヌのこの姿勢は、シャルトル大聖堂にある『横たわる聖母』の彫刻を参照したものであり、ベルナールはマドレーヌを聖母になぞらえたのではないかいう説もある。

 この絵の完成から7年後、結核に冒されたマドレーヌは24歳の若さで亡くなったという。
 文学的な香りがする美しく静謐な絵だった。


 この絵と前後して描かれたベルナールの作品に『水浴の女たちと赤い雌牛』という絵がある。

 これは、先ほどの『愛の森』とは打って変わって「肉体の氾濫」とでもいうような、逞しく野性味のある絵だ。

 画面左上に赤みがかった雌牛が描かれ、それと呼応するかのように、雌牛のごとく丸々と肥え太った10人の裸女たちが描かれている(アングルの『トルコ風呂』のパロディか?)。

 女たちのどっしりとした重量感、お色気ゼロのしぶとさ、ふてぶてしさ。裸女というよりも、牛たちがハダカの女の着ぐるみを着て、草原でゴロゴロしているかのような風情なのだ。

 『愛の森』で描かれた聖女とは対照的だが、これも女性の本質をついた作品といえなくもない。両者の対比が面白かった。