2010年6月18日金曜日

『語りかける風景』展:禅寺で庭を眺めるように

                      
 今回、いちばん好きだったのが4番目の《水辺の風景》のコーナー。やはり水のある風景って癒されますね。


 月明かりに照らされた森の中の湖にボートを浮かべる人々を描いたイポリット・プラデル『月明かりのボート遊び』や、セーヌ河とロワン河の交わるサン=マメスをいかにも印象派的な筆致でとらえたシスレー『セーヌ河畔、あるいはロワン河畔』、ふんわりした白い雲が漂う明るい青空にはカモメが舞い、広い湖にはヨットが浮かぶ穏やかな景色を描いたフランソワ=ルイ・ダヴィド・ボシオン『レマン湖』、いかにも南仏的な色と光をモザイクのような点描技法で表現したシニャック『アンティブ、夕暮れ』、小舟と草木と空が落ち着いた輝きを宿した鏡のような水面に映るジャン=バティスト・カミーユ・コロー『ヴィル・=ダブレーの池』など、これぞ風景が、というような作品が目白押し。


 こうしたなかで、微妙に明度と色調の異なる黒で描かれたマックス・エルンスト『暗い海』が独特のシュールな雰囲気を醸していた。環のようなモチーフはフロッタージュで描かれているそうである。


                   * * *

 次の《田園の風景》では、コローやルソーなどのバルビゾン派やシスレーやモネ、ピサロなどの印象派の画家たちをはじめ、クールベやデュフィなどさまざまな画風の画家たちの風景が紹介されていた。


 ここで、というかこの展覧会でいちばん印象に残ったのが、コローの弟子で「靄と露の画家」と評されたアントワーヌ・シャントルイユ『太陽が朝露を飲み干す』だ。
 壁一面に広がる巨大な絵である。

 前景の水辺には鹿の親子、開けた森の先にある地平線から朝日が昇り、広大な空をプラチナ色に染めている。朝露は描かれていないが、水辺や森に漂う空気がしっとりと水気を含んでいる。

 「清々しくしっとりとした朝の空気」がじつに見事に表現されていて、まさに「靄と露の画家」シャントルイユの面目躍如たる作品だった。

 それに、この絵の展示の仕方が最高なのだ。絵が長椅子の前に架けられているので、椅子に座ってぼうっと無心になって絵を眺めることができる。

 そうやってこの絵をひたすらぼうっと眺めていると、目の前の風景に自分が溶け込んでいくような錯覚さえ覚えてくる。静かな禅寺で庭を眺めているような、穏やかでゆったりとした気分になれるのだ。

 おそらくこの、人もまばらな金曜の夜の静かな美術館で、こうして座っている時でしか味わえない感覚なのだろう。いわば「一期一会の感覚」である。
 展示の仕方によって、絵と対面したときに受ける感覚や体験が違ってくることを改めて実感した。



 Bunkamuraミュージアムは、作品解説がいつも丁寧でこだわりがあるし、来館者の側に立って企画・展示してくださっているように思う。


 次回の展示は、『ブリューゲル版画の世界』展らしい。パンフレット(大判でかなり凝ったデザイン)を見たけれど、これもかなり面白そう。


          パンフレットを見るだけでワクワクするブリューゲルの世界。






                 Bunkamuraザ・ミュージアム『語りかける風景』展
               http://www.bunkamura.co.jp/museum/index.html